憲 法
小林 康一
T.授業概要
法学特に日本国憲法について諸君はどの様に考えているだろうか。興味を持った人は非常に少なかったと思われる。実際日常生活においても憲法を意識することは、ほとんどない。しかしながら、よく考えてみると,我々の長い一生において、他者から援助を受けなければ生活すら成り立たない場合がある。
例えば我々が失業したり、病気になった場合、あるいは老人になった場合、各種保険制度、年金制度により国から給付を受けることが出来る。これらの制度はつきつめて行くと日本国憲法にその源泉を持っているのである。(例えば国民に対して健康で文化的な最低限度の生活を保障した日本国憲法25条)すなわち、我々の日常生活は究極的には憲法によって保障されていると言うことも出来る。
又、この背景には、国民一人一人を人格的存在として尊重しなければならないという「個人の尊厳」があり、国は、まさにこの「個人の尊厳」を確保する為にこそある、という思想がある。そして、以上を現代福祉国家理念の下に具体化したものが日本国憲法に他ならない。
ところが最近、老人福祉(健康保険料、年金支給額等)の見直しが財政再建の名の下に進められようとしている。この様に、社会的弱者に負担を強いるのは、果たして妥当といえるであろうか。本講義においては、以上を念頭におきつつ、国民(主権者)として選挙を通じて政治に参加するに際して、あるいは介護担当者として国の政治の枠組み,国民一人一人の権利・自由の保障は如何にあるべきか概観することは重要であることが理解されよう。
〈受講生の皆さんへ〉
1.半期の授業という特性を考慮してあまり細かい点にこだわるよりも全体を概観するという型で講義を進めて行くことにする。
2.又、授業の回数の関係上、統治機構よりも基本的人権保障に重点をおくことにする。
3.その際,次の点に留意して行く。先ず第一に,日本の文化(法も含めて)は、明治維新以来、ほとんどが欧米から導入されたものであり、憲法自体は戦前はドイツ、戦後はアメリカの影響を受けているという事実があり、その点に関連させ歴史的な側面から講義を進める。第二に憲法は現実に生起している社会問題と深く関わっており抽象的な理論よりも具体的事例(裁判例)を素材にして講義を進めて行くつもりである。
4.その為には受講する諸君も新聞・テレビ等で話題となった事件・事実には日常的に関心を持つようにして、その問題意識を持って授業にのぞんで欲しい。
5.教科書としては縣幸雄他著『法律を学ぼう』和広出版を使用する。
他の文献については授業中にその都度指示する。
授業計画
回 |
授業項目 |
授 業 内 容 |
授業の準備 |
1 |
オリエンテーション 憲法とは何かT |
憲法は立憲主義を具現化したものといわれているがそれはどういうことか。 近代以降の法による法に基づく政治体制とはどの様なものであるのか。又、その中で憲法をどの様に位置づけるのかを概観する。 |
シラバスに目を通して来る。 |
2 |
憲法とは何かU |
歴史上、近代以降各国で立憲主義が発達すると共に最高法規としての憲法も変化して行く事になる。主として、ヨーロッパ、アメリカの状況を概観する。 |
高校時代の社会科教科書(特に政経・公民・世界史)の該当部分に目を通して来る。 |
3 |
大日本帝国憲法史T |
日本は明治維新を経て、近代国家として歩み始めた。当時の社会状況の中で如何に憲法は成立したのかを概観する。 |
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4 |
大日本帝国憲法史U |
大日本帝国憲法を支えた基本原理とは何であったのか。又、この憲法はその後どの様に解釈・運用されていったのか。 |
高校時代の社会科教科書(特に日本史)の明治〜昭和の部分に目を通して来る。 |
5 |
日本国憲法史T |
GHQ(占領軍)の指示による憲法改正のプロセス、及びその内容の革命的変更とは何か(例、天皇主権から国民主権へ) |
別途指示する参考文献資料に目を通して来ること。 |
6 |
日本国憲法史U |
日本国憲法の基本原理(国民主権など)を大日本帝国憲法との比較で考えてみよう。 現在までのこの憲法の解釈・運用状況はどうであったか。 |
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7 |
基本的人権 総論 自由権T |
基本的人権とは何か。又、その根底にある「個人の尊厳」とは何か。 国家の干渉を排して自由に考えたり行動したりする自由を自由権というがその内容・意義について。 |
国家と個人、全体と個の関係を考えて来ること。 |
8 |
自由権U |
信教の自由−個人がいかなる宗教を信ずるかについては全く自由と考えられるが戦前はそうでなかった。この事について考える。 職業選択の自由−ある種の職業(医師など)についてはそれに従事することが制約されているが何故か。 |
靖国神社問題について考えて来ること。 資料を配布予定。 |
9 |
社会権T |
私的・経済的領域に対する国家の介入により成立した「社会権」とは何かについて考えてみよう。 |
社会には(経済的)強者と弱者が存在するが、これに対して国家はどの様に対応すべきかを考えて来ること。 |
10 |
社会権U |
日本国憲法下における社会権(生存権・労働基本権など)の内容を概観しつつ社会的弱者保護についての国家の役割を考える。 |
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11 |
統括機構 総論 国会T |
近代以降の政治の原則の一つである「権力分立」の意義・内容について。 「国民主権」を実現する機関としての「国会」とは何か。 |
現代政治の中で、行政は突出した存在であるが何故か考えて来ること。 |
12 |
国会U 内閣 |
「国会」の構成、「選挙制度」について 内閣総理大臣、国務大臣の地位・役割について概観する。 |
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13 |
裁判所 |
「基本的人権」保障機関としての裁判所の構成、役割について概観する。 |
裁判というものをどう理解すべきか、各自考えて来ること。 |
14 |
地方自治 |
戦前の「中央集権体制」のアンチ・テーゼとしての地方自治(団体自治、住民自治)とはいかなるものであるかを概観する。 |
現代の地方政治における直接民主政を考えて来ること。 |
15 |
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期末テスト |
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